将来の健康を守るために、健康診断の結果を正しく理解しましょう
健康診断や人間ドックは、病気の早期発見だけでなく、将来の病気を予防することにも大きく役立ちます。質の高い検査を受けたらその結果を正しく理解することが、将来の健康を守るための第一歩となります。ここでは、検査結果の中で使われる言葉の意味と、生活習慣病を中心に指摘されることが多い情報についてご紹介しています。また、最後には、最近増えてきた人間ドックの腫瘍マーカー検査について、当院ではどう考えているかをお伝えしていますので、参考にしてみてください。
「要再検査」「要精密検査」?
予備知識がないと全て同じような意味としか思えない似たような検査結果は、それぞれ異なった対応を必要としている状態です。検査結果を深刻に捉えすぎるのも問題ですが、たいしたことはないだろうと放置していると、数年後に大きく日常生活を制限される治療が必要となる可能性があります。
生活習慣病は放置すると動脈硬化を進行させ、脳や心臓に大きなダメージを与える可能性がありますので、健康診断では生活習慣病を特にしっかり診ています。生活習慣病は、早期に適切な治療を受けることが将来の健康リスク軽減だけでなく、生活の質を守るためにも重要になってきます。「まだ大丈夫」な時期に専門医の意見を一度、しっかり聞いておきましょう。
異常なし
正常範囲です。問題はありません。
要経過観察・要再検査
正常範囲ではなかったため、定期的な検査で経過観察する必要があります。緊急な治療が必要な段階ではありませんが、生活習慣の改善などで数値を正常範囲に戻すことが将来の健康につながります。当院では、生活やお仕事に無理なく取り入れられるアドバイスをお一人おひとりに合わせて行っておりますので、お気軽にご相談ください。
要精密検査
健康診断では特定できる病気もありますが、病気の疑いがあることしかわからないものもあります。要精密検査は、病気の有無や特定のために精密検査を受ける必要がある状態です。要精密検査の場合、精密検査を受けてみたら異常なしとわかることも珍しくありませんので、必ず受診するようにしてください。
要治療
すぐに治療が必要な状態ですので、速やかに専門医を受診してください。
検査項目について
生活習慣病は、自覚症状がほとんどないまま進行し、適切に治療することで将来の脳や心臓に起こる重大な発作を予防できます。そして早期に発見した場合には、支障や不便を感じない範囲で生活習慣を改善して数値を正常に戻し、それをキープすることも可能です。ただし、それぞれの数値はそれほど悪くなくても、合併することでリスクが大幅に上がる特徴を持っていますので注意が必要です。
メタボリックシンドローム
生活習慣病は合併することで動脈硬化の進行が早まり、それぞれの数値がそれほど悪くなくても脳出血・脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが大幅に上昇します。メタボリックシンドロームは、高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)の複数が合併しており、内臓脂肪が過剰に蓄積していて、動脈硬化が進行しやすい状態です。それぞれの数値は治療が必要なほどではないため、数値だけで油断してしまうケースが多いのですが、メタボリックシンドロームの指摘を受けたらすぐに専門医を受診してください。
血圧
常に高い血圧が続く場合、血管には絶えず大きな負担がかかり続けるため動脈硬化を起こしやすく、脳出血・脳梗塞、心筋梗塞などのリスクが上層します。ただし高血圧症は1度の血圧測定でわかるものではないため、高血圧症かどうかはっきりと診断する(確定診断)にはクリニックで受診する必要があります。血圧は緊張などによっても上昇することがよくあるため、健康診断では高めに出てしまう場合もあります。そのため、ご自宅に血圧計があって安静時に計測できる場合には、何度か測って結果をメモし、それをご持参されるとより正確な診断に役立ちます。
コレステロール
LDLコレステロールと中性脂肪が動脈硬化を起こし、DLコレステロールは動脈硬化を防ぎます。LDLコレステロールと中性脂肪が多い場合には高脂血症です。また、動脈硬化を防ぐDLコレステロールが少ないケースでも動脈硬化を起こしやすくなります。この両方を合わせて「脂質異常症」と呼んでいます。
脂質異常症ではそれぞれの数値だけでなくバランスが重要で、それが乱れる状態が続くと脳出血・脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが上昇します。他の生活習慣病の有無もリスク要因として大きく影響するため、しっかり治療を受けて改善しましょう。
血糖値
血糖値が高い状態が続く病気が糖尿病です。高血糖が続くと血管に負担をかけ続けて動脈硬化を起こしやすくなり、脳出血・脳梗塞、心筋梗塞などのリスクを上昇させます。また、高血糖は毛細血管にも悪影響を与えます。そのため、糖尿病になると、失明や足指の壊死、透析治療が必要になる腎機能障害など生活の質を大幅に低下させる合併症の危険もともないます。
健康診断などで血糖値が高めだった場合、早めに受診して上手に血糖値をコントロールすることをおすすめします。
尿酸値
痛風発作につながることから尿酸値を気にされる方が増えてきました。尿酸値が高いと、血管や腎臓に大きな負担をかけ続けますから、その意味でも尿酸値のコントロールは重要です。尿酸値を上げないためにはプリン体の多い食品を避けることだけでなく、カロリー制限や適度な運動、水分補給も欠かせません。また、ビールだけ控えれば大丈夫と勘違いされている方が多いのですが、アルコール類はすべてプリン体を多く含むため飲酒はできるだけ控える必要があります。
尿検査
尿検査では、血尿の有無、尿中に含まれる糖やタンパク質の量を調べます。こうした数値に異常があった場合、糖尿病、腎機能障害、腎炎、尿路感染症、尿路結石、腫瘍などの可能性があります。ただし、前日や当日に摂取した飲食物などから影響を受けやすいため、精密検査できちんと調べる必要があります。こうした病気は無症状で進行して突然、強い痛みや重篤な症状が出てくることがありますので、必ず受診してください。
肝機能
健康診断では、肝機能障害の有無はわかりますが、それがどういった原因で起こっているのかまではわかりません。原因にはアルコール、肥満、ウイルス感染、服用している薬の影響などがあるため、早急な治療が必要ではないかを調べるためにも精密検査が不可欠になります。肝機能障害は進行すると生活の質を著しく下げてしまいますし、胃や食道に静脈瘤を作り、それが破裂して命に関わる可能性もあります。肝機能に異常があったら、一度専門医を受診して原因を調べてみましょう。
心電図
心臓の働きを調べて、不整脈、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、心筋症や心肥大などにつながる異常について調べる検査です。「心臓の異常」ということで深刻に受け止めてしまわれる場合が多いのですが、経過観察だけで十分な状態だと精密検査でわかることもよくあります。まずは精密検査を受けてください。
ただし、息切れや胸の痛みなどの症状があり、心電図に異常が現れた場合にはリスクがかなり高い可能性がありますので、できるだけ早い受診が必要です。
貧血
女性に多い鉄分不足によるものだけでなく、体内で出血が起こっていて貧血が起こっているケースがあります。貧血が現れるほど出血している場合、できるだけ早く受診して原因をつきとめることが重要になります。特に胃や大腸からの出血では、早急に適切な治療が必要ですから、内視鏡検査で直接、粘膜の状態を確認しておきましょう。
腫瘍マーカーに関する当院の考え方
腫瘍マーカーは、すでにがんになって治療を受けている方が対象の検査であり、がん治療の効果や再発の有無の目安となります。タンパクや酵素などの急激な上昇を調べるものなので、がん以外の原因でも数値は上昇します。腫瘍マーカーでわかることは、腫瘍があるかもしれないということでしかなく、確定診断のためにはいくつもの精密検査が必要になり、結局がんではなかったとわかることもかなり多いのです。はじめからご本人のリスクに合わせた精密検査をオプションで組み入れた人間ドックメニューを受診する方がはるかに役立ちますし時間も短縮できます。また、受診される方をいたずらに不安にさせてしまうこともありません。
例外として、前立腺の腫瘍マーカーなど健康診断や人間ドックに取り入れて有効なものもいくつかありますので、当院では組み込んで効果的な腫瘍マーカー以外のおすすめは控えています。